東京地方裁判所 昭和52年(行ウ)289号 判決 1979年3月15日
原告 株式会社さたけビル
被告 下谷税務署長
代理人 東松文雄 三宅康夫 ほか三名
主文
1 本件訴えのうち、過少申告加算税の賦課決定の取消しを求める訴え及び被告が原告に対して更正をすることを求める訴えをいずれも却下する。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実<省略>
理由
一 本件各賦課決定の取消しを求める訴えについて
請求原因三及び本案前の主張1の(一)の各事実は当事者間に争いがない。そうすると、原告が本件各賦課決定についてした異議申立ては法定の異議申立期間(国税通則法第七七条第一項、第四項)経過後にされた不適法なものである。したがつて、本件各賦課決定の取消しを求める訴えは不服申立前置の要件を欠く不適法な訴えである。
二 更正をすることを求める訴えについて
右訴えは、被告のした四五ないし四八事業年度の更正すべき理由がない旨の各処分を不服として、同事業年度の所得金額を原告主張額とする各更正をすることを被告に対して求めるもので、いわゆる義務づけ訴訟と認められるが、現行の行政事件訴訟法のもとにおいては、仮に義務づけ訴訟のようないわゆる無名抗告訴訟が許容されるとしても、それは同法所定の四類型の抗告訴訟によつては行政庁の違法な公権力の行使による国民の権利又は法律上の利益の侵害を救済することができない場合において、一定の要件の下に例外的にのみ許容されるものと解されるものである。
ところで、申告に係る所得金額が過大である場合にその過誤を是正するためには、当該申告者は、まず税務署長に対して更正の請求をし、これがいれられない場合には税務署長がした更正すべき理由がない旨の処分の取消しの訴えを提起し、当該訴訟で所得金額の過大認定を理由とする取消判決を得れば、その拘束力により税務署長は右判決の趣旨に従つた更正をしなければならなくなる(行政事件訴訟法第三三条第二項)から、その目的を達することができるものである。
したがつて、被告がした更正すべき理由がない旨の処分の取消しの訴えとは別に、被告に対して更正をすることを求める訴えを提起することは許されないというべきである(なお、四五ないし四七事業年度については、後記三のとおり原告がした更正の請求が期間経過後の不適法なものであるため、更正すべき理由がない旨の処分の取消しの訴えにおいて所得金額の過大認定を違法理由として主張することができず、したがつて、それを理由とする取消判決を得ることができないため原告の所期の目的を達することができないが、これは、更正の請求という申告の過誤の是正方法についての租税法律関係の法的安定性の面からの合理的な制約(期間制限)の結果であるから、やむを得ないものである。)。
三 四五ないし四七事業年度の更正すべき理由がない旨の各処分の取消請求について
1 請求原因一のうち四五ないし四七事業年度に関する事実は当事者間に争いがない。
2 そこで、右各処分に原告主張の違法が存するか否かについて判断する。
国税通則法第二三条第一項の規定による更正の請求は、法人税の法定申告期限(各事業年度終了の日の翌日から二月以内(法人税法第七四条第一項)から一年以内に限りすることができるものであるから、原告がした四五ないし四七事業年度の各更正の請求はいずれも右請求期間経過後のものである。
原告は、この点について昭和四八年一〇月三一日付各修正申告は被告所部係官による強要によりやむを得ずしたものであるから、被告は右各申告を更正すべき信義則に基づく義務を原告に対して負担すると主張する。しかしながら、当該申告が強要によりされたものであるとしても、当該申告自体が無効と評価されることがあるのは格別、当該申告者からの更正の請求が法定の期間経過後にされた場合において税務署長が当該請求を適法なものとして処理すべき義務が信義則上生ずると解することはできないし、<証拠略>によれば、右各修正申告は、原告の経理責任者である大吉義雄が被告所部係官から通達等税務署側の見解を示され、原告の関与税理士兼公認会計士である小原繁蔵からも修正申告をするように勧められた結果、原告代表者において修正申告書を提出したものであることが認められ、右認定の事実によれば、右各修正申告は被告所部係官の強要によるものとは到底いえないから、いずれにせよ原告の右主張は失当である。
以上の次第で、原告がした右各更正の請求はいずれも不適法なものであるから、右各更正の請求に対し被告がした更正すべき理由がない旨の各処分に違法はない。
四 四七事業年度の更正の取消請求について
1 請求原因五の1の事実、四七事業年度の所得金額について申告所得金額一〇三三万二九三九円に損金とならない未納事業税額四二〇〇円を加算すべきこと、及び被告の主張2の(二)の(1)の事実は当事者間に争いがない。
2 そこで、償却費相当額二四万二六二五円が四七事業年度の益金となるかどうかについて判断する。
本件償却費条項のように、賃貸借契約の終了事由の如何を問わず償却費名義で敷金相当額の一定割合の金員を賃貸人が賃借人から申し受ける趣旨の約定がある場合には、特約のある場合を除いては賃貸人は契約終了の際右償却費を契約締結に際し賃借人から預託を受けた敷金から控除して(他に当該賃貸借に関して生じた債務があればそれも控除して)その残額を賃貸人に返還すれば足りるという契約関係にあるものと解されるところ、本件においても、これに反する趣旨の特約の存在を認めるに足りる証拠はないから、右と同様に解すべきである。
そして、敷金中償却費相当額の収益計上時期は、敷金の一定割合の金員につき返還を要しないことが確定した時と解すべきであるから、これを本件についてみるに、本件償却費条項によれば、敷金相当額の一割に当たる償却費相当額については当該契約に係る貸室の引渡しのあつた日に、また敷金相当額の一割五分(二割五分から一割を控除した割合)に当たる償却費相当額については当該契約成立の日から五年を経過した日に、それぞれ返還を要しないことが確定し、賃貸人である原告において自由に収益処分し得るものであるから、その日の属する事業年度の益金に計上すべきものである。
原告は、この点について、差入敷金等の会計上の処理及び償却費について契約終了に際し本件償却費条項と異なる約定がされることがあることを理由に右のように解すべきでないと主張するが、原告主張の事実は、本件償却費条項に基づく償却費相当額の収益計上時期についての前記判断を左右するものではないから、原告の右主張は失当である。
また、原告は、差入敷金の担保価値の減少を理由に前記のように解すべきでないと主張するが、本件償却費条項が定められたことにより、契約締結に際し授受される敷金の一定割合について、名目上は敷金として授受されるが、その実質はいわゆる権利金ないし更新料の性質を有する金員であると解されるから、原告の右主張も失当である。
そして、株式会社日本レクリエーシヨンとの契約が昭和四六年一一月一日に締結され同日敷金が授受されたことから、右契約に係る貸室の引渡しが四七事業年度中にあつたことが推認され、また<証拠略>によれば、日本感光紙工業会、有限会社東京ウオツチサービスセンター及び菊池荘六との別表二記載の各契約がその成立の日から五年を経過した日以後も継続していたことが認められる。そうすると、別表二記載の各契約に関して原告が四七事業年度において賃借人から収入すべき償却費相当額は同表記載のとおり算出される。したがつて、右償却費相当額の合計額二四万二六二五円は同事業年度の益金となるものである。
3 以上の次第であるから、四七事業年度の所得金額は、申告所得金額一〇三三万二九三九円に右二四万二六二五円及び前記損金とならない未納事業税額四二〇〇円を加算した一〇五七万九七六四円である。
よつて、四七事業年度の更正に所得金額を過大に認定した違法はない。
五 四八事業年度の更正すべき理由がない旨の処分の取消請求について
1 請求原因一のうち四八事業年度に関する事実及び被告の主張3の(一)の事実は当事者間に争いがない。
2 そして、償却費相当額の収益計上時期は前記四の2のとおりであり、別表三記載の各契約の締結及び敷金差入年月日が同表記載のとおりであることから、右各契約に係る貸室の引渡しが四八事業年度中にあつたことが推認される。そうすると、右各契約に関して原告が同事業年度において賃借人から収入すべき償却費相当額の合計額は五二万円と算出され、右五二万円は同事業年度の益金となるものである。
3 したがつて、四八事業年度の所得金額について右五二万円を減額すべきではないから、同事業年度の更正すべき理由がない旨の処分に違法はない。
六 四九事業年度の更正の取消請求について
1 請求原因五の2及び被告の主張4の(二)の(1)の各事実は当事者間に争いがない。
2 そして、償却費相当額の収益計上時期は前記四の2のとおりであり、太陽産業株式会社との契約が昭和四九年七月三〇日に締結され同日敷金が授受されたことから、右契約に係る貸室の引渡しが四九事業年度中にあつたことが推認される。そうすると、右契約に関して原告が同事業年度において同社から取得すべき償却費相当額は九万円と算出され、右九万円は同事業年度の益金となるものである。
3 したがつて、四九事業年度の所得金額は、申告所得金額五六二万〇九〇三円に右九万円を加算した五七一万〇九〇三円であるから、同事業年度の更正に所得金額を過大に認定した違法はない。
七 よつて、本件訴えのうち、本件各賦課決定の取消しを求める訴え及び更正をすることを求める訴えをいずれも却下し、原告のその余の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 藤田耕三 菅原晴郎 杉山正巳)
別表一、二、三 <略>